健幸のたね
第3回「病気予防のためには運動が大事、ではどのくらいすれば?」
前回、「男性はがんと生活習慣病に、女性は足腰の不調を含めた虚弱化、認知症に注意!」とお伝えしましたが、これらの病気や状態に共通して効果があるのが運動です。
しかし「運動が大事」と分かっていても、どの程度の運動をどのくらいすれば良いのか、あやふやな方もおられると思います。
今回は10年以上にわたり約5000人の高齢者の身体を調査してきた中之条研究*1から、効果的な運動とはどの程度の運動なのかをお伝えします。
《年齢と歩行の関係》
お年寄りが、信号が変わるまでに渡りきれない、そんな光景をみたことがあるのではないでしょうか。
一般に年齢とともに歩く速さ(歩行速度)は遅くなる傾向にあります。理由は歩き方が変化するからです。背中が曲がり、上体が前かがみになる姿勢の変化から始まり、膝関節が曲がっていきます。猫背で歩幅を大きくとることが出来なくなると、自然と歩幅の小さい歩き方になり歩行速度が遅くなります。
このような歩行能力の低下はいろいろな原因が複合的にからんで生じますが、中でも重要なのは、加齢とともに身体を動かさなくなることによる筋力の低下です。
運動や活動の指標に「1日の歩数」がありますが、1日の平均歩数をみると、加齢とともに1日の歩数は減少し50代と70歳以上を比べると平均歩数は2,000〜3,000歩減少しています(図1)。
図1:平成25年「国民健康・栄養調査」の結果より作図
《老化を促進する悪循環》
このような運動量、活動量の低下が筋力の低下につながり、さらに運動や活動意欲を下げてしまうという悪循環につながってしまいます(図2)。
《健康のカギ》
いつまでも若々しくいるために身体を動かした方が良い、病気予防のためには運動が大事、と分かっていても、どの程度の運動をどのくらいすれば良いのか、という問題がありました。
この問題が解決するようにと、東京都健康長寿医療センターの青柳幸利先生が「歩数」と「速歩きの時間(中強度の活動時間)」による健康づくりの指標を編み出しました。
その指標とは、『高齢者にとって健康維持、病気・病態予防のために基準となる数値が「1日平均8000歩、中強度の活動時間が20分」』というものです(図3)。
中強度の運動の種類は問わず、身体活動計では3〜5METsが中強度にあたります。その強度の中で一番軽い運動は速歩き。速歩きは最も手軽で継続しやすい運動で、そのポイントは「大股で速く、そして力強く歩く」こと。
活動計を持っていない場合は、「会話はできるけれど歌は歌えない」程度の歩行が目安です。
(図3)中之条研究*1より:中之条研究データから得られた各病気の予防ライン
「最近歩いていないかもしれない」と心当たりがある方は、お散歩や買い物などに出かけてみてはいかがでしょうか。
ただし前述のように60代以上の1日の平均歩数はこの指標よりも少ない値です。急にこの8000歩や速足を意識して無理をすると体に負担がかかり、逆に不調の原因となってしまう危険性があります。
まずは現在自分がどの程度歩いているのかを知るところから始め、その平均から「+500歩」「+1000歩」を目標に、徐々に運動・活動量を増やすことをお勧めします。最近は携帯にも歩数や活動量計が付いています。自分へのプレゼントで購入するのもよいかもしれません。
また運動好きな方は張り切って身体を動かすかもしれませんが、青柳幸利先生は「8000歩/20分が理想なのは、すべての変数において健康効果が出るから。ただし、この数値を超えると統計的に頭打ちになる。疲れ過ぎると免疫機能は逆に下がってしまう。8000歩/20分以上の運動というのは、筋力はつくかもしれないが、病気の予防にはならない」とも言われています。
年齢を重ねると歩きたくても足腰に問題を抱えていたり、その他の持病で歩くのが難しかったりする方も多くいらっしゃいます。そのような方は主治医に相談してから活動を始めましょう。
また運動という言葉に抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。そのような方は“活動”と意識されることをお勧めします。
暑い時期は熱中症予防を意識し、時間帯を考え水分摂取しながら、歩くことを心がけてみましょう!
*1中之条研究:東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム副部長・運動科学研究室長の青柳幸利氏が、群馬県中之条町にて65歳以上の全住民である5000人を対象として行った長期研究のこと。
(近畿労働金庫 健康管理センター)