健幸のたね
第5回「8時間睡眠の神話」
前回、夜間ひん尿についてお伝えしましたが、年齢を重ねるにつれ、健康な方でも睡眠が浅くなり途中覚醒や早朝覚醒が増加します。
今回は、睡眠についてお伝えします。
年令とともに体力が落ち、老眼になったり、白髪が増えたりするように睡眠も年齢により変化が生じます。
年齢による睡眠の変化は大きく2つあり、1つ目は眠りが短くなること、2つ目は眠りが浅くなることです。
1.睡眠が変化する理由
年齢とともに睡眠の質が変化する原因は様々で、同時にいくつもの要因を抱えていることが多いと言われています。
2.加齢と睡眠の関係
(1)睡眠時間
『8時間睡眠が理想』と耳にしたことはありませんか?この説については最近の研究により「科学的根拠なし」と言うことが明らかになっています。
日本の睡眠研究をリードする国立精神・神経医療研究センター部長の三島和夫先生は、「世界中の睡眠研究をまとめたメタ解析の分析データでも、8時間以上眠れるのは中学生くらいまで。70代になったら、正味6時間くらいしか眠れないし、眠る必要性も低下します。」と言われています。
実験室で脳波を測定して得た年齢ごとの平均睡眠時間のデータ(図1)をみても、年齢を重ねるとともに睡眠時間は短くなっていますが、若い頃の睡眠時間を望むのは不要かつ無い物ねだりになるようです・・・
(2)年代別、寝床にいる時間
年齢とともに睡眠時間が短くなる一方で、年齢による入眠・起床時間や寝床にいる時間をみると、加齢とともに寝床にいる時間が長くなっています(図2)。70歳近くなると平均して正味6時間くらいしか眠れないのに対し、寝床にいる時間は9時間です。
結果として3時間は寝床にいても眠れぬままに過ごしていると言うこと。これでは睡眠の満足度が下がることに繋がってしまいます・・・
(3)睡眠の深さ
睡眠脳波を調べてみると、深いノンレム睡眠が減って浅いノンレム睡眠が増えるようになります(図3)。そのため尿意やちょっとした物音などでも何度も目が覚めてしまうようになります。
ただし、睡眠学の最新の研究によれば、実は「深い睡眠」が「よい睡眠」とは限らないということが明らかになっています。
3.加齢にともなう睡眠変化の対処法
* 就寝の際には「眠くなるまで寝床に入らない」ようにします。
高齢者は眠くなるタイミングが若い頃より1時間〜1時間半ほど早まりますが、質のよい睡眠をとるための体のコンディションが整うのは、平均すると午後10時30分以降とされています。なるべく遅い時刻まで起きていて、本当に眠くなってから床に就くとよいでしょう。
* 不眠症患者は『横になっているだけで体が休まる』『目を閉じていれば眠くなるはず』など誤った観念に縛られ床上時間が延長する傾向が強く、このような「眠れないままにベッド上で苦しむ体験」がむしろ睡眠感を悪化させると言われています。床上時間を実際に眠れていると感じている総睡眠時間(自己評価)プラス30分〜1時間程度に制限することにより床上での睡眠不全感に悩む時間を抑え、かつ断眠による翌晩の催眠効果が期待できます。
* 「朝の光を避ける」方法。朝の光には、体内時計を調整して朝型にする効果があるので、朝早く目覚めて困る場合は朝の光を避けることが大切です。
* 光の効果は時間帯により異なり、夕方以降の光は体内時計を夜型に調整します。朝の散歩を夕方に変えるなども効果的です。
* 「睡眠にメリハリをつける」ことも大切です。できれば昼寝は避け、どうしても眠くて昼寝をする場合にも早めの時間に、30分間以内にするようにしましょう。
* 00昼寝の直前にカフェインを含む飲料をとると、目覚めがすっきりします。
4.さまざまな睡眠障害
年を重ねるとかかりやすい睡眠障害があります。中でも睡眠時無呼吸症候群・周期性四肢運動障害・レム睡眠行動障害などは専門施設での検査と診断が必要ですし、通常の睡眠薬では治りません。
心あたりのある方は受診し医師に相談しましょう。
現時点では、残念ながら個々人にあった睡眠時間の指標はなく、前述のように「深い睡眠」が「よい睡眠」とは限らないとなると、ますます分からなくなります。
前述の三島先生は「睡眠時間も、夜型・朝型などのリズムも、睡眠は人それぞれですし、年齢やライフスタイルによっても変化します。平均身長はあってもベストな身長がないのと同じで、100点満点の眠り方などありません。『8時間睡眠の神話』に縛られすぎると睡眠への不満や不安が高まるばかりです。自分の日中のパフォーマンスが悪くならない睡眠時間が最適と心得るのが良く、睡眠科学に基づいた正しい知識をもとに“自分なりの改善法”を見つけてください。それが唯一の正解です。」と言われています。
寒くなると毛布の暖かみや、ホットカーペット、コタツとウトウト寝を誘うものが増える一方で、逆に活動量が減り、夜間不眠傾向になる場合があります。
昼〜夕方にかけては身体を動かし、最適の睡眠を手に入れられるようにしましょう。
参考文
- 三島和夫「8時間睡眠のウソ」 日経BP社
- 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット