健幸のたね
第6回「『ヒートショック』を御存知ですか?」
「ヒートショック」という言葉をご存知でしょうか?
暖房リスク予防委員会が2014年に行った調査によると、「ヒートショック」という言葉は、約半数(50.9%)の方がご存知という結果が出ています。
しかし、“自分は無関係”と思っている方が多いとのこと。
健康維持のため、自宅の温度差をなくす工夫をしてみませんか。
《ヒートショックとは》
ヒートショックとは、暖かい部屋から寒い部屋への移動などによる急激な温度変化によって血圧が上下に大きく変動することをきっかけにして起こる、身体への悪影響のことです。
東京都健康長寿医療センター研究所が行った調査では、2011年には約1万7,000人もの人々がヒートショックに関連した入浴中急死をしたとみられ、その数は交通事故による死亡者数を大きく上回ります(図1)。
ヒートショックは気温の下がる冬場に多くみられ、失神や不整脈を起こしたり、心筋梗塞や脳梗塞など急死に至る危険な病気を起こしたりします。
特に外気温が低くなる12月から1月にかけて、入浴中に心肺機能停止となる人が、もっとも少ない8月のおよそ11倍に急増します(図2)。
ヒートショックは体全体が露出する入浴時に多く発生します。住宅内で暖房をしていない脱衣室や浴室では、室温が10度以下になることが珍しくありません。寒い脱衣室で衣服を脱ぐと、急激に体表面全体の温度が10度程度下がります。すると寒冷刺激によって血圧が急激に上がります。
この血圧の急上昇が、心筋梗塞、脳卒中を起こす原因のひとつとされています。さらに、一度急上昇した血圧は、浴槽の暖かいお湯につかることによる血管の拡張で、反対に急激に低下し、この急激な血圧低下が失神を起こす原因となります。
ヒートショックの危険性が高い人として、高齢者や、高血圧、糖尿病、脂質異常症をもっている人が挙げられています。
《ヒートショックを防ぐ6つのポイント》
寒い季節、脱衣所や浴室を温かくすることで、ヒートショックは防ぐことが出来ます。また、トイレも体を露出させる場所なので、暖かく保つことが重要です。
1.脱衣所や浴室、トイレへの暖房器具設置や断熱改修
冷え込みやすい脱衣所や浴室、トイレを暖房器具で温めることは、効果的対策の一つです。また、窓まわりは熱が逃げやすいため、内窓を設置するなどの断熱改修も効果があります。浴室をユニットバス(周りの壁・天井・床が一体になっているお風呂)へ改修することでも断熱性は向上します。
2.シャワーを活用したお湯はり
シャワーを活用した浴槽へのお湯はりは効果的です。
高い位置に設置したシャワーから浴槽へお湯をはることで、浴室全体を温めることができます。
3.夕食前・日没前の入浴
夕食を食べる前、日没前に入浴することも良い対策法です。日中は日没後に比べ、外気温が比較的高く、脱衣所や浴室がそれほど冷え込まないことに加え、人の生理機能が高い午後2時〜4時に入浴することで、温度差への適応がしやすいためです。
4.食事直後・飲酒時の入浴を控える
食後1時間以内や飲酒時は、血圧が下がりやすくなるため、入浴を控えた方がよいでしょう。
5.湯温設定41℃以下
お湯の温度を41℃以下にしておくことを、お勧めします。
6.ひとりでの入浴を控える
可能な場合は、家族による適切な見守りや、公衆浴場、日帰り温泉等を活用し、ひとりでの入浴を控えるといった方法も有効です。
《部屋全体が暖まっていると、血圧が安定化しやすく、活動量が高くなります》
東京健康長寿医療センターが2010年に行った調査では、部屋全体が暖まっている「適温」での生活が、血圧の上昇を抑え、安定化に有効であることが分かっています。
また2008年度に行った調査によると、部屋全体が暖まっている「適温」で生活をしている高齢者は、こたつやホットカーペットのみを使っている高齢者に比べ、活動量が高いという結果が出ています。
高齢者住宅の暖房状況と運動機能などの関連を調べた調査では、居間全体を暖房している高齢者は、握力や膝伸展力などの筋力レベルが高いことも確かめられています。
《熱のおよそ半分は窓から逃げる いますぐできる断熱方法》
冬場の居室では熱の48%が窓から、外壁から19%が、床から10%が逃げるとされています。これらの熱を逃がさないよう、断熱性能が高い窓ガラスを使用したり、断熱シート・フィルムを貼ったりなどの工夫が大事と言われています。
「暖房時にカーテンやブラインドを閉める」、「すき間テープ等で、窓からのすき間風を防ぐ」といった対策は、断熱改修や断熱フィルムなどに比べ効果は限定的ですが、手軽にいますぐ取り組むことができます。
これから本格的な寒さがやってきます。トイレや浴室の対策を行うとともに、部屋全体を暖めて元気に冬を過ごしましょう!
参考文献:保健指導リソースガイド・東京都健康長寿医療センター